その481 まどろむ 2018.8.25

2018/08/25

今年の夏は猛暑、豪雨と大変な夏であった。
台風20号が過ぎても大雨が思い出したように降る。
部屋の窓を閉めていても、一気に雨が降り出すと湿度は上がる。
ピアノの鍵盤がにわかにすべりやすくなる。

 

猛暑は一段落したので、夜の寝苦しさは幾分ましになった。
一度目が覚めて、もう一度まどろみの中に落ちていく。
「まどろむ」を広辞苑などの辞書で引くと「微睡む」と出る。
他に「まどろむ」と読む漢字がないか漢和辞典で調べるが、こちらも「微」の項で「微睡む」と出る。
古語辞典には、源氏物語にある「まどろむ」の用例が示されていたが、ひらがな表記であった。

 

ふと、診察室にあった卓上版新明解国語辞典(第4版1995年)を引くと、
「まどろむ」は目、蕩(とろ)むの意、「微睡む」は一種の義訓と出ていた。
納得できる説明である。コンパクトな辞書であるがさすがは新明解。

 

8月中旬に小学校の同窓会があった。
当然のことながら集まった人は全員が私と同じ年だが、みんな元気で若い。
それぞれにきっとストレスも悩みもあるはずで、自分で会社をやる人、お勤めの人、
子育てが一段落ついた女性など様々な人生の途中なのだが、はじけてる感がすごかった。

 

振り返って我が身。気になる漢字や言葉があるとチクチクと辞書を引き、
ちょっとばかり小難しいピアノ曲の音符を一つ一つ拾っては眼から脳へ、脳から指へ、
指から鍵盤へと楽譜の音を伝えて、なんとまあ地道なことよ。
ちょっと夏バテ気味だった私はみんなから元気をもらった気がする。

 

駐車場の午後のこと。
猫は真夏の三日だけ暑いという。
まだ日なたは暑いが、屋根付きのひんやりとした駐車場で、幼さの残る猫が昼寝をしていた。
車の下に長々と寝そべって、その隣に駐車してもピクリともしない。
時折涼やかな風が通り、かすかに上下する猫の腹を撫でていく。「まどろむ」というよりは熟睡に近い。

 

もうすぐ夏は終わり。
四国山地の山ではアザミの花にハチが飛び交って、秋が始まっている。